YOSOMON! - 「地域で働く」をもっと身近に!

インタビュー・コラムゆるやかな革命のレシピをみつけるために。都市と地域を股に掛ける、新しいワークスタイル

INTERVIEWS

ゆるやかな革命のレシピをみつけるために。都市と地域を股に掛ける、新しいワークスタイル

但馬 武さん(株式会社エーゼロ取締役)

YOSOMON!では経営革新にチャレンジする地域の中小企業と経営に近い立場でやりがいある仕事にチャレンジしたい都市部のビジネスパーソンをつないでいます。2016年のYOSOMON!を通じて新しいチャレンジの一歩を踏み出された但馬武さん。

但馬さんは、パタゴニアというアウトドア専門アパレル業界で働かれていましたが、人口1,600人の岡山県西粟倉村に拠点を置く株式会社エーゼロに参画。現在は、神奈川県横浜市、岡山県西粟倉村、北海道厚真町という3つの拠点を股に掛け働かれています。「移住」せずに地域を舞台にするという、新しい働き方をされている但馬さんにお話しを伺いました。

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――但馬さん、本日はお忙しい中お時間をとっていただきありがとうございます。まずは自己紹介をお願いします。

現在は岡山県西粟倉村に本社をおく株式会社エーゼロという会社で働いています。月の半分は東京におりますが、残りは厚真町や西粟倉、またはその他の地域におります。 もともとずっと「パタゴニア」という外資系アパレルで通販やオンラインストアを管理運営するダイレクトマーケティング部門を中心に19年働いていました。パタゴニアは「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。」という経営理念を基に様々な取り組みをしており、僕自身もいろんな環境活動してきました。いま働いているエーゼロ株式会社の社長牧さんとも、パタゴニア時代に林業を勉強するために西粟倉へ訪問したことがある縁で存じ上げておりました。

「孫の世代まで地球環境を残す」ことを自分の理念に定めたこともあり、僕が生きている間に何かしらの結果を残したいなという思いが強くあります。約20年働いてきた道を振り返ってみると、たしかに僕はパタゴニアを通じて環境問題に意識の高い人々を多く育ててこれたかなとは思います。パタゴニア自体の売上も伸びましたが、では伸びた分、環境問題が減ったわけではない現実に気づきました。 残りの人生を考えたときに、より効果のある取り組みに自分の命を使いたい。そのことが地域を元気にするとり組みに関わりたい。それが転職の大きな要因です。地域を愛するひとがいて地域経済が成り立っている状態では環境問題って起こらないのではないでしょうか。例えば原発設置でいえば漁業権を放棄しない漁師さんばかりだったら原発は設置されることはないわけで。


転職は「手段」の1つ。自分の中にある「目的」はずっと変わらない。


――実際にパタゴニアを退社することについて迷いなどはなかったのですか?

迷いは特にありませんでした。というのも、「孫の世代まで地球環境を残す」ことを実現するために、僕の時間を使う場所はパタゴニアじゃないかもしれないと、薄々ではありますが8年くらい前から感じていました。違和感がありながら、その理由がわからず、パタゴニアも素晴らしい企業なので、転職するきっかけもつかめず悶々としていた気がします。

――地球環境を守りたいという軸がずっとあって、転職はその目的を変えたわけではなく手段を変えたという感じなんですね。実際にエーゼロさんの中では具体的にどういったことをされているのですか?

本社は岡山県の西粟倉村ですが、私個人の活動拠点は北海道厚真町になります。西粟倉で牧さんが森の学校や「エーゼロ」を通じて培ってきた経験に基づいて、厚真町でチャレンジする人が集まり未来に向けて動き出すお手伝いをしています。具体的には、厚真町を舞台に自分の想いを事業化しようとする人を応援する「ローカルベンチャースクール」というプログラムや厚真町の資源を活用するインキュベーション型地域商社を作っていくことに取り組んでいます。

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――地域で動く中で面白さを感じるときはどんなときですか?

地域では過疎が進んで余白が多くなってきているために、すぐに動きだせる可能性が高いです。例えば東京で自治体を巻き込んで何かやろうと思っても、調整しなければいけない関係者や超えないといけない壁がたくさんあります。しかし地方だと役場の人とすぐ知り合いになれますし、話が進みやすいんです。過疎が進むことは寂しく問題もおこりますが、その功罪としては余白が広がっていて動きやすい。それが面白いなあと思いますね。

――余白がある分、可能性が満ちあふれているような感じですよね。

そうですね。余白があって、可能性もある。でもそれらに光が当たっていないのは、ちゃんと理由があって。伝えるのが下手だったり、根本的に難しい部分もあるんだろうなあと思います。この点はとてもやりがいを感じます。

――多拠点で活動されている但馬さんが、地方と都市部で仕事するうえで意識されていることや、仕事との向き合い方で何か変えていることはありますか?

地域と都市部で働くことに大きな差はありません。仕事内容でふりかえってみますと現時点ではほぼありませんが、都市部にいるときに関わってきた企業へのサポートと地域という点でみると、やはり特に差はないとおもっています。 企業と地域での大きな差はその関係者の多さによる複雑性の増加かなとおもいます。そこで生きている方々の思いや歴史なども重なり、地域の方が、ずっと複雑性は増すなというのはあるとおもいます。

――そうなんですね。環境が変わったことでお仕事の面でも生活の面でも変化したところがあると思うのですが、そのあたり実際はどうですか?

移動が多く家にいない機会が増えましたが、自治体での仕事が初めてなので色々な地域に訪れ吸収の1年でした。特に多くの素晴らしい公務員の方々に出会って視点が大きく変わったのを自覚しています。


何か始めるのに都心や地域という差はない


――パタゴニアに勤めていたときから地域での活動をされていたからこそ、変化は少なかったのかもしれませんね。今は以前よりも地域との距離が格段に近くなったと思いますが、但馬さんが考える「地域で働く」というものはどういったものでしょうか?例えばこういう人は地域向いてる、などなど…

「地域で働く」とは?については特に答えはもっていません。ただ、新しいことを始めるのに、都会や地域、どちらも同じではないかとおもいます。向き不向きについても、地域で何をするのか?によるのではないでしょうか。 何か挑戦するといったケースでいうと、一般的な企業で役割をこなすというような会社員をしてきた人にとっては活躍するのが少し難しいと思います。また、他人の夢を応援するケースがあってもいいのでしょうけれども、依存するような関係性も長続きしないのかなとおもいます。自分自身で夢を持ち、その夢を実現したいと強く願っている人が素敵だとおもいます。

――但馬さん自身のビジョンと、地域の仕事はどのようにつながっているのでしょうか?

総務省大臣補佐官であった太田直樹さんのブログでも解説がありましたが、京大と日立の研究で人口知能(AI)を活用して持続可能な地方分散型社会をつくるための分析結果が昨年ニュースになっていました。これから日本は都市集中が進むのか、それとも地方分散型社会に舵をきっていくのかは今後8年から10年間で決まるそうです。 都市集中のほうが経済効率は高まります。しかし、人口動態をみれば日本総人口は急速に減っていくなかで、出生率がとても低い都市にひとが集まれば、その人口減少は更に加速するのではないかと危惧しています。

日本では一人あたりの国土面積はとても少ないため、人口減はむしろやりかたによってはビジネスチャンス拡大や、住みやすさなどの幸福度拡大につながる可能性があります。日本人をマーケットにするビジネスとしたならばマーケットは縮小していきますが、世界人口は増えていますしマーケットチャンスは拡大するといえます。必要なのはイノベーションであり、新しい挑戦です。 地域にある素敵な人財や自然、食材などを活用して100年後の日本をつくっていく布石をうつ。そのためにははやり、地方分散の社会が最適だと確信しています。 経済は大事な指標です。ただ、同時に人々の幸福感も追求ができる国でありたいです。パタゴニアにいたときには地方分散といっても、そのものを仕事にはできませんでしたが今、そのど真ん中で働いている実感があって、自分のやりたいことにつながっているなとを感じます。

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「ゆるやかな革命のレシピ」をみつけたい


田舎でも資本主義経済の影響や利便性を求める人々の欲求はあると思います。利便性をもとめ地域にはたくさんコンビニがあるし、若者はどんどん都市に出ていく。そのお金を中心とした価値観の磁力はとても強いものがあります。 しかし、お金という軸ではなく充実して生きるのかっていう観点でみた場合、その磁力から逃れることができるのではないでしょうか。例えば、子どもを自然豊かな環境の中で育てたいという思いを都心部で叶えることは難しいですし、コミュニティーのなかで子育てしていくこともそうです。「充実度」を中心とした生き方や地域づくりっていうのが僕はひとつの可能性ではないかなって思うんです。

僕は今地域にチャレンジャーを集め育成することや、地域商社という形で日の当たりにくくなっている地域資源を活用して地域を元気にする取り組みもしていきたいと思っています。 日本は資源がない国だからこそ、経済を大事にしてきた時期がありますが、これからは資源の捉え方も変わると思います。つまりは時代とともにモノの見方も変わるはずです。その変化はゆるやかではありますが、確実に私達の目の前に立ち現れるはずです。時代が変わる、それはあたかも革命のように。僕は、そういった、「ゆるやかな革命のレシピ」みたいなものを見つけたいし、充実度っていう観点から経済の在り方っていうのを追求していきたいなあと思っています。


「孫の世代にまで地球環境を残す」という軸の元にあるものは?


――パタゴニアから転職という道を選ばれていますが、但馬さんにとってはやりたいことに向かっていることに変わりはないんですね。まるで道具を持ち替えたというように。最後に但馬さんの「孫の世代にまで地球環境を残す」という理念はどこから生まれたものなのか教えていただけますでしょうか。

僕はハーフとして生まれて、幼いころはいじめがあった時期がありました。でも僕の母も、外国人ということで、僕以上に辛い思いをしているんですよね。それでも母はボランティア活動などずっと続けていて、人ってこんなに他人のために動けるんだなって思って、僕も人の役に立ちたい、社会のために何か結果を残したいっていう考えにつながったんだと思います。人生何かあっても最終的には物事は必ず良くなるって思っていて、僕はその中で子どもたちが笑顔で生き生きとした元気な社会があることだけでいいんじゃないかなって。 使命とは、命の使い方のことですが、まだわかりません。ただ、いま私たちが直面する課題は大きく超えるために数世代かかるものです。僕は次の世代の露払いとなれるように、できるかぎりのことをしていきたいとおもいます。地域を元気にする仕事にはその価値がとてもありますので。

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ーーありがとうございました!

PROFILE

但馬 武さん(株式会社エーゼロ取締役)

1971年東京生まれ。パタゴニア日本支社にて約20年、ダイレクトマーケティング全般を担う。「孫の世代まで地球環境を残す」ことを理念に、持続可能な未来を地域からつくるためにエーゼロに入社。横浜在住、月の半分は西粟倉村、厚真町滞在の3拠点生活。趣味はトレイルランニング、料理、読書。

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